呼吸器グループ
肺がんは大きく分けて2つに分類されます。ひとつは「原発性肺がん」と呼ばれ、肺の細胞から発生した癌のことです。もうひとつは「転移性肺腫瘍、または転移性肺がん」で、他の臓器に発生したがんが肺に転移してくる(とんでくる)ものです。転移性肺腫瘍の治療に関しては、いまも様々な意見があり、いまだ定まった標準治療は無いといってよいでしょう。
転移性肺腫瘍に対する治療を考えるとき、最も大事なことは、他の臓器に発生したがんが、どうやって肺にたどり着いて、そこで着床し、発育したのかということだと考えています。他の臓器に発生したがんが肺にたどり着く経路は3つ考えられています。
そのうち転移性肺腫瘍をきたす経路は、ほとんどが①の血行性転移だといわれています。つまり他の臓器に発生したがんからがん細胞が多数血管内に入り込み、血管の中をぐるぐる回っているということです。しかし血管内に入ったがん細胞の多くは機械的あるいは免疫学的に死んでしまうので、肺にたどり着くがん細胞はごく一部ということになります。そのうえそれらがん細胞が肺に生着して育つためには、さらにいろいろな種類の因子(化学物質など)を必要とするため、転移性肺腫瘍ができるためには多くの関門があるといえます。
ここで再び転移性肺腫瘍に対する治療を考えてみましょう。今まで見てきたように転移性肺腫瘍はがん細胞が主に血管の中をぐるぐる回っていて、そのごく一部が肺に現れているのだと考えると、当然その治療法としてまず考えなければならないのは「全身的な治療」ということになるかと思います。
現在全身的な治療として最も一般的なものは化学療法(抗がん剤治療)です。そのほか免疫療法やホルモン療法などもあります。しかしながら現在の医療レベルではいかんせんまだ全身治療だけでがんを死滅させることは非常に難しいといわざるを得ません。したがって「全身的な治療」に対して「局所的な治療」である手術や放射線療法、さらにはラジオ波焼灼療法などが必要となってきます。
さらに多くの臓器のがんが血管の中に入って、肺に流れてゆく経路は、主に「大静脈系転移経路」であるといわれています。この場合、がん細胞はまず肺に到達します(肺が1番目のフィルターとなっている)ので、ほとんどのがん細胞は肺より先には流れていかないのではないかと考えられています(上図)。したがって、肺に転移してきた腫瘍に対して局所治療(手術など)を行うのも一理あると考えられています。
転移性肺腫瘍に対する手術の適応は、上表にあげていますThomfordの基準に基づいて決定されることが多いと思われます。ただし医学も進歩していますので、症例によっては肺以外に転移があっても手術を行うこともありますし、また両方の肺に転移を認めても手術を行うことも多くなってきました。
岡山大学医学部歯学部附属病院では、転移性肺腫瘍に対して、1990年1月から2006年2月までの約16年間に、160人の患者様に対して201回の手術を行ないました。女性が74人、男性が121人で、年齢は9歳から78歳で、平均49.2歳でした。最初にがんが発生した臓器は、いろいろな肉腫が最も多く81例、腎臓がんが33例、大腸がんが21例、直腸がんが20例、口腔~咽頭がん、子宮がん、膀胱がんが各11例、睾丸腫瘍が10例など多彩でした。 手術(アプローチ)の方法としては、胸腔鏡下手術が91例、開胸手術が110例で、また実際に切除する肺の範囲は、部分切除が122例と最も多く、区域切除が49例、一葉あるいは二葉切除が16例、肺全摘が5例でした。いずれも腫瘍の大きさや個数、また片側であるか両側にあるか、また患者様の全身状態や呼吸状態などを十分考慮して、各患者様にとって最も適した方法を探し出して手術を行っています(表1、2)。
単発 | 多発 | 計(%) | |
---|---|---|---|
胸腔鏡下 | 42 | 49 | 91(45.3) |
後側方切開 | 36 | 33 | 69(34.3) |
胸骨正中切開 | 0 | 8 | 8(4.0) |
胸骨横切開 | 0 | 33 | 33(16.4) |
単発 | 多発 | 計(%) | |
---|---|---|---|
部分切除 | 42 | 49 | 91(45.3) |
区域切除 | 36 | 33 | 69(34.3) |
一葉切除 | 0 | 8 | 8(4.0) |
二葉切除 | 0 | 33 | 33(16.4) |
全摘 | 1 | 4 | 5(2.5) |
また2001年6月より放射線科の全面的ご協力によりまして、多くの転移性肺腫瘍症例のうち、手術不可能あるいは手術をご希望にならない患者様に対して、ラジオ波焼灼術を行っております。これによって一人でも助かる患者様がいらっしゃればと思っています。
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