呼吸器グループ
肺の悪性腫瘍(肺がんや転移性肺腫瘍)の低侵襲治療(体に優しい治療)は、近年様々な新しい方法が開発され、応用されるようになってきました。その中の一つがラジオ波を用いた焼灼(温熱)療法で、熱によって腫瘍の細胞を殺してしまう方法です。肺悪性腫瘍に対するラジオ波治療の初めての成功例は、2000年にアメリカで報告された3例に始まります。それ以後現在に至るまで肺がんや転移性肺腫瘍を中心に、多くの胸部悪性腫瘍に対してラジオ波治療が行われるようになってきました。当院でも集学的治療の一つとして、放射線科でその治療を行っております。
ラジオ波焼灼術はラジオ波電極(針)を腫瘍あるいは腫瘍の近くに刺し、電磁波の一種であるラジオ波(約500kHz前後の周波数)を通電することによって、発生するジュール熱によって腫瘍を凝固壊死させるという方法です。
岡山大学医学部歯学部附属病院では2001年6月より2011年7月までに488症例、1325個の腫瘍に対してラジオ波治療を行いました。その対象となるのは、「従来の手術の適応とならない胸部悪性腫瘍」です。具体的には、以下のような方を対象としております。
以来現在に至るまで、原則的に腫瘍の大きさや個数に関しては確立した基準は設けておらず、一人一人個別に呼吸器外科、呼吸器腫瘍内科、放射線科の医師によって検討を加えて決定しています。ただし基本的には大きさが2~3cm以下で、腫瘍数が3~5個以下が対象になります。また遠隔転移やリンパ節転移、悪性胸水の貯まった例などは対象から外しています。
実際の治療は、全例CT透視を見ながら行っています。麻酔はほぼ全例局所麻酔下に行なっています。特に胸膜の腫瘍あるいは胸膜付近の腫瘍に対する治療では、痛みが比較的強い傾向があるので、硬膜外麻酔(背中から細い管を入れる)あるいは静脈麻酔を併用して行います。いずれも比較的簡便な方法ですので、特に合併症などが現れない限り、数日間(2~5日間)の入院で行えるという特徴があります。
電極針は、内部を冷却水が通っている直針(Cool-tip RF System)と、展開針(LeVeen SuperSlim Needle Electrode)の二種類を使用しています。全く異なったタイプの電極針ですが、その特性を症例ごとに検討して使用しています。
効果の判定はしばしば困難ですが、ダイナミック造影高分解能CT検査による腫瘍内の血流判定や、腫瘍マーカー検査の値、さらに最近ではFDG-PET検査などを併用することによって、可能な限り正確な効果判定を心がけています。
岡山大学病院で経験した症例のデータによると、まず全症例におけるラジオ波焼灼後の局所制御率(有効率)は、1度の焼灼で有効であったのは、1年後86%、2年後76%、3年後76%であり、2006年以降では、1年後89%、2年後85%、3年後85%です。効果は主に腫瘍の大きさに反比例し、1cm未満では96%、1~2cmでは69%の局所制御です。
また予後に関しては、まず病期I期非小細胞癌における全生存率は1年後90%、3年後74%、5年後61%でした。特に最も早期の病期IA症例に限ると1年、3年、5年生存率はそれぞれ95%、85%、66%と良好な成績が得られております。
次に転移性肺腫瘍に対するラジオ波治療の成績ですが、特に症例の多い大腸癌の肺転移に対する成績で見てみると、生存率で1年後96%、2年後54%、3年後48% でしたが、特に遠隔転移やリンパ節転移、悪性胸水の貯まった例などを除けば、1年生存率100%、2年生存率76%、3年生存率68%と非常に良い成績といえるでしょう。
治療の有効性とともに重要なのが安全性だと考えています。岡山大学病院では現在までに2例(0.4%)の症例を失っています。さらに合併症は、約65%の治療で起こりましたが、最も多かったのは気胸(肺が一時的に縮む)で、全体の約52%で認められました。ただそのうちの9%は一時的な注射器での吸引で軽快し、11.8%は管の挿入を要しましたが、残りの約80%は特別な治療を要しませんでした。通常2~5日の入院で可能であることなども加味して考えれば、比較的安全な治療法ではないかと思います。
以前は保険が通らない自由診療でしたが、2022年9月より肺がんに対して保険診療が認められています。
詳細は下記リンク先をご参照ください。 ≫岡山大学医歯薬総合研究科 放射線医学